フィールド全体を見渡す目と想像力
神宮球場に何十年も通っていると、いつしか見る席が決まる。今はホームベースと三塁ベースを結ぶラインを引いた最上段の席。この席で何十年も一人でスコア・シートを書きながら見ている。
若い頃は外野席でファン同士が交流しながら見るのが好きだった。選手を間近に見たいとフィールドに近い席で見たこともあった。今はフィールド全体が見渡せるこの席が好きだ。
フィールド全体から野球を見るようになってから、野球には2つのタイプがあることに気付いた。
サッカー、ラグビー、アメリカン・フットボールのようにボールを空いたフィールドを目指して前進するゲーム。
テニスやバレー・ボールのように空いたフィールドにボールを落とすゲーム。野球は後者のタイプだ。
この席でフィールド全体を見ていると守備をしている7人の選手は豆粒でフィールドは空きだらけに見える。なんでボールを空きだらけのフィールドに落とせないのか、ヒットなど簡単ではないかと思える。でも、選手は打席からフィールド全体を俯瞰できない。空いたフィールドを想像できない。
しかし、一人だけ打席でフィールド全体を俯瞰する鳥の目を持っている選手がいることにある時に気付いた。ヒットメーカーのイチロー選手である。彼のバットから飛んで行くボールは正確に空いたフィールドに落ちる。
恐らくイチロー選手は打席に入る前に鳥の目でフィールド全体を俯瞰しているのではないかと思ってしまう。